今や、学生の3人に1人が利用するのが奨学金です。
私は就職後、約8年間で返済を終えることができましたが、なかには返済期間が十数年以上になる方もいるようです。この場合、就職後の生活の負担となっているケースも少なくありません。
そのため、奨学金を利用する場合は、その種類や返済方法などをあらかじめ理解しておく必要があります。
今回は奨学金制度の基本的な知識をはじめ、活用のポイントと注意点について解説していきます。
家計における教育費の負担は年々増加の傾向にあり
近年の物価高の影響を受けて、実質賃金のマイナスが続いています。そのため、住居費と同等に家計を圧迫してくるのが、「教育費」です。
文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」を基に、「令和の大学生」と「平成元年の大学生」の年間授業料を比較してみますと、平成元年の国立大学の年間授業料は約34万円、私立大学の年間授業料は約57万円ですが、令和5年の国立大学の年間授業料は約54万円、私立大学の年間授業料は約96万円までに増加しています。家計における教育費の負担は年々大きくなっていることが分かります。
教育費は子どもが小さいうちからコツコツと積み立て、準備することが望ましいですが、なかなか難しいご家庭もあります。そうしたなか、活用するのが、「奨学金」です。
教育費は銀行などの民間の金融機関から借りるものもありますが、今回は国の奨学金を運営する日本学生支援機構(以下、JASSO(ジャッソ))を紹介したいと思います。
奨学金には返済が必要となる「貸与型」と不要の「給付型」がある
JASSOの奨学金は卒業後に返済が必要となる「貸与型」と返済が不要の「給付型」があります。JASSO「奨学金事業への理解を深めていただくために(令和5年11月)」によりますと、令和4年度の利用実績のうち、「貸与型」は約113万人、「給付型」は約34万人となっております。
令和2年4月から開始した「高等教育の修学支援新制度」によって「給付型」の奨学金が拡充していますが、依然として「貸与型」の奨学金を活用する学生の方が多いのが現状です。
また、JASSO「奨学金事業への理解を深めていただくために(令和5年11月)」によりますと、令和4年度は高等教育機関の学生(365万人)のうち、119万人がJASSOの奨学金を利用(支給または貸与)したとありますので、概ね学生の3人に1人がJASSOの奨学金を利用していることになります。
貸付型奨学金の返済について理解する
JASSOの貸付型奨学金には、無利子の「第一種奨学金」と有利子の「第二種奨学金」があります。
返済の方法には、貸与総額に応じて毎月の返還金額が決まる「定額返還方式」と、所得に応じて月々の返還額が決まる「所得連動返還方式」があります。
「第一種」奨学生はどちらも選択することができますが、「所得連動返還方式」を利用する場合は、後述します「機関保証」に加入する必要があります。もし、「人的保証」を選択した学生が「所得連動返還方式」を利用する場合は「機関保証」に変更し、過去にさかのぼって一括で保証料を支払う必要があります。
「所得連動返還方式」は、毎月の返済金額が前年の所得に応じて年ごとに変動するため、総返還期間も変わります。所得が多ければ返還月額が増えて、返還年数も短くなります。その一方で、所得が低い時期が続くと返還期間が長くなること、減額返還との併用はできないことに注意が必要です。
「第二種」奨学生の返済方法は貸与総額によって返還月額と返還年数が自動的に決まる「定額返還方式」のみです。返還方法は毎月同じ金額を返還する「月賦返還」と、返還総額のうち半額を毎月均等に支払い、残りをボーナスなどの賞与のタイミングに合わせた1・7月に上乗せして返還する「月賦・半年賦併用返還」の2つから選択します。
採用時に提出する「返還宣誓書」でいずれかを選択する必要があり、「返還宣誓書」の提出後は原則として割賦方法の変更ができませんので、よく考えましょう。
私は「第一種」奨学生として、2年間、私立理系の大学院へ進学しました。当時、「所得連動返還方式」という制度は無かったため、「定額返還方式」にて、返済をしていましたが、結果として、「定額返還方式」で良かったと思います。
「毎月決まった金額で返済する」ことが、私には分かりやすかったことが大きな理由です。
また、「第一種」・「第二種」ともに返還額の全額や一部繰上げ返還できる「繰上返還」を申込むことができます。
特に、「第二種」奨学生の場合は支払利息を減らす効果もあるため、余裕資金あるときは必ず検討するべきだと考えます。
固定金利か変動金利なのかは「申請時」に選択
JASSOの貸与型奨学金の返還利率は奨学金を申し込む際に、貸与終了時の利率が返還完了まで適用される「利率固定方式」、概ね5年ごとに市場金利に合わせて見直される「利率見直し方式」のどちらかを選ぶのかによって異なります。
JASSOが公表する「貸与利率一覧」によると、令和6年8月に貸与終了の場合、「利率固定方式」の返還利率は1.210%、「利率見直し方式」は0.500%の水準です(基本月額の貸与利率)。
こちらは奨学金申請時に「固定もしくは見直し(変動)」を選択するのに対し、返還利率が決定するタイミングは貸与が終了する、つまり卒業時であるため、悩ましいです。
将来の金利を予想することは誰もできないため、難しい判断となります。
ただし、期限は年度によって異なりますが、「貸与期間が終了する年度の一定期間まで変更可能」というルールもあるため、卒業年度に改めて利率の算定方式を変更することもできます。
JASSOの奨学金の返還利率は「3%」が上限と決まりがありますが、利率算定方式の選択は卒業後の返還負担にも大きく関わるため、金利の情勢を見ながら慎重に選択しなければなりません。
私は、「変動金利」とは金利が上昇しても支払い続けることができる方に向けた金利と考えています。そのため、申請時は「利率見直し方式」で申請し、給与水準が高い業種(職種)や安定した大企業などに就職する場合はそのまま「利率見直し方式」での支払いをお勧めします。
その一方で、給与水準が低い業種(職種)や相対的に雇用形態が不安定になり易い零細・中小企業などに就職する場合は「利率固定方式」を選択し直す方が無難かと考えます。
「人的保証」と「機関保証」の違いとは
JASSOの貸与型奨学金を利用する場合、借主となる学生は保証人を立てる必要があります。保証は「親」、「叔父・叔母」などの4親等以内の親族が保証人となる「人的保証」のほか、JASSOが指定する保証機関を利用する「機関保証」があります。
「機関保証」は貸与期間中(在学中)に一定の保証料を支払うことにより、将来、万が一延滞した際に、保証機関(公益財団法人 日本国際教育支援協会)が返還者に代わってJASSOへ返還(代位弁済)する制度です。
代位弁済後も、返還者は保証機関に対して責任を持って返還する必要がありますが、この制度を選択する場合には、連帯保証人(父母等)や保証人(叔父・叔母等)を立てる必要がありません。
「連帯保証人や保証人を頼みづらい」という方、「自分の意志と責任において奨学金を申し込みたい」という方は、「機関保証」の制度を選択してみましょう。
「機関保証」については、JASSO「奨学金事業への理解を深めていただくために(令和5年11月)」でも確認することができます。なお、令和4年度に「機関保証」を選択した人は53.3%と半数を超えていることが確認できます。
今後は「機関保証」が主流になっていくかと考えられます。
病気や失業などで収入が減り、奨学金返還が滞った場合はどうなるのか
毎月の返済が厳しくなりそうなときに利用したいのが、「返還期限猶予制度」や「減額返還制度」です。まずは、JASSOへ相談することから始めましょう。
期日までに返済されないときは、年率3%の延滞金が加算されることになります。延滞3ヶ月目以降は個人情報が個人信用情報機関に登録されることになります。
延滞情報が個人信用情報機関に登録されますと、新たにクレジットカードが作れない、携帯電話を分割払いで購入できない、住宅ローンの審査が落ちるなどのデメリットがあります。
また、延滞4ヶ月目以降は、本人だけではなく保証人にも債権回収会社から督促が実施されます(人的保証の場合)。長期間の延滞が続きますと、返還期限が到来していない分も含めた返還未済額と利息、延滞金の一括返還請求が行われ、給与や財産が差し押さえられることもあります。
毎月の返済が厳しくなりそうなときは、JASSOへ必ず相談することから始めましょう。
給付型の情報収集と就職活動はしっかりとやる
「ガクシー」など、近年は奨学金情報サイトで「奨学金」に関する情報を簡単に検索することができるようになりました。
卒業後のことを考えると、返済の必要のない「給付型」の奨学金を活用したいご家庭も多いと思います。安易に「貸与型」の奨学金を活用することはせず、まずは「給付型」の奨学金を活用するように、情報をしっかりと収集しておくべきです。
また、企業の福利厚生の一環として、従業員の奨学金の一部及び全額の返済を肩代わりする「代理返還制度」を導入している企業もあります。「貸与型」の奨学金を活用した方は就職活動をする際、検討するべき事項でしょう。
私が奨学金として貸与を受けた総額は数百万円でした。当時の私は、無理なく確実に返済できるのは大企業かつ金融業界だろうと勝手に思い込み、就職活動は大企業かつ金融業界を中心に実施しました。
修了後は大手銀行に就職したため、無事(?)に返済(返還)し終えましたが、大学院生のときに関心のあったIT業界、スタートアップ(ベンチャー)企業に就職活動としてチャレンジしなかった、できなかったことは悔いが残っています。
借金をすると思考の停止、チャレンジ精神の阻害などの要素があるかと思います。
近年は特に給与水準が高い業界や企業に就職できないと奨学金の返済は難しいと考えますので、安易な活用はお勧めはしません。
長期間にわたる奨学金の返済は借主となる我が子(学生)のライフイベントにも大きな影響を与えますので、ご両親は子どもが小さいうちからコツコツと教育費を積み立てていきましょう。
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